採用の現場においては、応募者の仕事に対する考え方や意識を問うためのアンケートが使われることがよくあります。
多くの設問で様々なことを問う社会調査や無記名でのユーザー調査などであればあまり気にならなくても、採用を前提とした現場で提示されるアンケートの場合、応募者からすれば、例えば「仕事第一で貢献意識の強い応募者が好きなのだろう」や「元気にチャレンジすることを厭わない応募者が望まれるのだろう」的な意識がどこかで働き、設問への回答時にバイアス(ある種の「社会的な容認バイアス」)がかかることは容易に想像できます。
採用する側と採用される側という関係からすれば、応募者にこのようなバイアスがかかることは避けられませんが、応募者にバイアスがかかりすぎると、双方にとってあまり良い結果は生まれないでしょう。
このようにバイアスが強くかかりすぎる懸念がある状況では、採用する側が設問に対する回答から知りたい特定の心理特性に対する度合いの強さを推定する段階で、知りたい心理特性に対して整合性の高い設問をあえて外して、残りの設問の中からできるだけ知りたい心理特性の予測に使えそうな設問を使って推定することで、バイアスの影響を弱める工夫をするようなことが考えられます。
例えば、「労働に対する価値観に基づくモデル」に「組織貢献因子」(仕事を通じて同僚やチーム・組織への貢献を重要だと考える度合いの強さ)があります。
採用する側からすればとても大切な心理特性ではありますが、採用される側がこの心理特性を必要以上に意識してバイアスがかかってしまうと…
“所属する組織のために力を尽くしていると実感するために働くこと”
“仕事を通じて所属する組織に貢献するために働くこと”
…のような、この因子に対して整合性の高い設問に、普段以上に強く肯定的な反応をしてしまいそうです。
そこで、このバイアスの影響を弱めるために、「組織貢献因子」に対する度合いの強さ(因子得点)の予測にはこの因子に対して整合性の高いこれらの設問は外して、残る設問の中からできるだけこの因子の予測に使えそうな設問を使って予測してみる、ということでしょうか。
但し、整合性の高い設問を外して予測しようとするわけですから、予測時の説明力が一定程度以上あるかどうかに留意する必要はあります。
人の主観的な判断には多かれ少なかれバイアスはかかります。
バイアスがかかりそうな状況では、その影響を弱めてみた結果も比較しながら丁寧に解釈を進めましょう。